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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)346号 判決

徳島市万代町一丁目

上告人

徳島県選挙管理委員会

右代表者委員長

藤岡直兵衛

右指定代理人

前田年男

岡本賢次

徳島県美馬郡古宮村字半平九九番地の三

被上告人

緒方隆雄

右訴訟代理人弁護士

谷原公

右当事者間の議会解散賛否投票の効力に関する請求事件について、高松高等裁判所が昭和二六年四月二一日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨上告の申立があり、被上告人は上告棄却を求めた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被上告人の請求を棄却する。

訴訟費用は当審及び原審とも被上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由は末尾に添えた書面記載のとおりである。

被上告人は本訴において、昭和二五年九月七日行われた徳島県美馬郡古宮村議会解散賛否投票の効力に関して同村委員会のした異議決定及上告人のした訴願裁決の取消を求めるものであるが、職権をもつて調査するに本件解散賛否投票に附せられた議会の議員の任期は昭和二六年四月二九日に満了し、現在においては判決を求める実益はない。

よつて原判決を破棄し被上告人の請求を棄却すべきものとし民訴四〇八条、九六条、八九条に則り主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

昭和二六年(オ)第三四六号

上告人 徳島県選挙管理委員会

右代表者委員長 藤岡直兵衛

被上告人 緒方隆雄

右上告人代表者委員長藤岡直兵衛の上告理由

高松高等裁判所(以下原裁判所と略称する)は本訴訟の判決に当り本件の処理は昭和二十五年五月四日法律第百四十三号地方自治法の一部を改正する法律(以下改正法と略称する)によるべきかはたまた右改正前の地方自治法(以下旧法と略称する)によるべきかについて考察し「改正法附則第九項には改正後の地方自治法第二百五十五条の二に規定する争訟でこの法律施行の際現に裁判所にかかつているものは同条の規定にかかわらずなお従前の例によると規定されてあるが右以外直接請求に関する争訟について何等規定が存しないから改正法の施行時たる昭和二十五年五月十五日当時現実に裁判所にかかつていない争訟については改正法によつて処理されるべきものと言わなければならない。而して本件争訟が昭和二十五年五月十五日当時は未だ裁判所にかかつていなかつたものであるからそれは改正法によつて処理せらるべきである」と判断し「改正法においては普通地方公共団体における直接請求にあつてはその署名簿の署名の効力に関する争訟と賛否投票の効力に関する争訟とは切然区別せられ署名簿の署名に関し何人からも異議を申立てずして賛否の投票が施行せられ投票の結果が実現せられた場合には賛否の効力に関する争訟においてはもはや署名簿の効力を争い得ず従つて署名簿の効力を言為して賛否投票の効力如何を判定するが如きは許されないものである。」と断定しているがそもそもこの点が上告人とその見解を異にしているところである。何となれば上告人は本件の直接請求の手続は旧法によるものであるが故にその争訟についても同様一貰して旧法によつて行わるべきであると主張するものである。

即ち改正法附則第十項の委任規定による昭和二十五年政令第百十九号(以下政令と略称する)附則第三項によつて改正法施行の際現にその手続を開始している直接請求については、なお、従前の規定によるとされているのであるが改正法と旧法では直接請求に関する争訟の制度が全く根本的に相違しておるため、もしこの場合において従前の規定によるものが手続その他執行に限るのであり争訟については従前の規定によらず改正法によると解するならば非常に不合理な結果を見るのである。即ち改正法における直接請求の争訟については、その署名簿の署名の効力に関する争訟と賛否投票の効力に関する争訟とは切然区別され、署名簿の確定前に署名に関する異議の申立を受け一旦賛否投票の結果が実現して後は署名の効力を言為して賛否投票の効力を争い得ないこと原裁判所の判決の明示するごとくである。これに対して旧法における直接請求の争訟については改正法第五章第七十四条以下並びに同法第二百五十五条の二の如き争訟に関する規定を欠いているため訴訟期間及び管轄裁判所についても必ずしも当然には地方自治法の特別規定によらないでもなし得るとする取扱を受けることとなる場合があるため、賛否投票の結果が実現して後でも署名の効力を言為してその投票の効力を争い得たのである。即ち旧法においては署名簿の瑕疵を理由として投票無効の争訟があつた場合はその事実が明白であつてその署名を無効とすれば直接請求の署名の法定数を欠くと認めるときは、これを受理しその請求に基く投票の無効の決定をしなければならないのでありこれは従来の判例及び行政実例でも明らかなところである。

(昭和二十五年(ナ)五町長解職投票無効確認請求事件、昭和二十五年五月二十九日仙台高裁民合判決及び昭和二十三年九月行政実例参照)これを要するに改正法にせよ旧法にせよ署名簿の署名は直接請求においては賛否の投票の前提をなす重要なものとしてその争訟提起期間に差異はあつても一応争訟の道を開いているのであり従つて改正法なら改正法のみ旧法なら旧法のみによつて直接請求の手続及び争訟が行われるならば何の不合理も存しないのである。問題は本件の如く政令附則第三項により旧法の規定により直接請求の手続を行つていながらその争訟についてのみは改正法附則第九項を形式的文理的にのみ解釈し施行時現在において裁判所にかかつていないという理由により旧法による争訟の方法を排除し争訟のみを改正法によるとするところに生ずる。即ち本件の場合の如きは署名簿の署名について全面的に争訟の道が封ぜられるに至るのである。署名簿の署名にいかなる違法があらうともいかに法定数に不足しようとも一旦賛否の投票が行われれば署名簿の違法は投票の効力に及び得ないのである。このことは改正法にせよ旧法にせよ有効な法定数を欠く署名簿を添えた直接請求に基いて行われた賛否の投票は、たとえ選挙管理委員会の投票手続に違法がないとしても結局投票を行うべきでなかつたにもかかわらず行つた投票であるとして無効であるとした実例及び判例と全く相反するものである。

故に原裁判所の判示するごとく改正法附則第九項以外には直接請求に関する争訟について何らの経過規定が存しないから改正法の施行時に現実に裁判所にかかつていない争訟については改正法によつて処理すべきであるとし政令附則第三項により改正法の施行時その手続を開始している直接請求についてはその手続その他執行のみは旧法によるという解釈は明らかに具体的妥当性を欠くあまりにも法文の文理にのみとらわれた解釈である。

要するに改正法附則第十項の委任規定による政令附則第三項により改正法の施行の際現にその手続を開始している直接請求についてはなお、従前の規定によるとあるのは手続その他執行のみならず関聯ある争訟も旧法の規定によると解するのが合理的であり改正法附則第九項はただ訓示的に改正法施行時現に裁判所にかかる争訟については旧法によることを規定したにとどまりそのほかの争訟については全面的に旧法の適用を排除する趣旨ではない。以上の理由により昭和二十六年五月十四日原判決を破毀して相当の御判決あらんことを求めるため上告した次第であります。

以上

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